松江地方裁判所 昭和33年(わ)16号 判決 1958年9月02日
被告人 小川啓之助
主文
被告人を懲役二年に処する。
但し、本裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。
押収に係る藁繩一本(証第一号)はこれを没収する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は、昭和三三年二月二七日、肩書居村部落歳徳神の例祭に際し、前夜から酒を飲み続けて泥酔せる長男孝(当二八年)が、同日午後三時半頃、居宅から飛び出し、折柄、居宅附近の小川実方前まで来かかつた祭礼の神輿に対し、木桶を投げつけたり、或いはこれを揺振る等の乱暴を始め、部落民が立騒いでいるので、これを制止せんがため、現場に駈けつけたが、孝は平素から酒を飲んでは家人のみならず部落民に対しても暴行を働く悪癖があることとて、かかる狼籍を目撃するにつけ、いたく世間態を恥じ、部落民に対する体面上からしても、この際徹底的に懲めてやるに如かずと考え、唯、孝の性質極めて兇暴であつて、尋常一様の手段では到底これを取鎮めることすら困難であるところから、非常手段に訴え、たとえ、孝が一時気絶するような事態に及んでも已むを得ないと決意し、偶被告人の弐男嘉将、甥野田祝等が立つたまま押えつけていた孝の首に、矢庭に所携の藁繩(証第一号)を二重にして捲きつけ、孝の後側から両手で繩の両端を強く締めつけて暴行を加え、そのまま右嘉将、祝の両名と協力して、現場から約三〇米離れた自宅まで孝を追返さんとしたが、程なく途中で右暴行に因り右孝をして窒息死するに至らしめたものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は、刑法第二〇五条第一項に該当するので、所定刑期範囲内で被告人を懲役二年に処する。情状について按ずるに、犯行の態容は著しく被害者の人格を無視せるものであり、本件の犯情は決してこれを軽視するを許さないが、一面、本件犯行に際し、被告人の心境につき憫諒すべき点なしとせず、その他諸般の事情を考慮して同法第二五条第一項により、本裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予することとし、押収に係る藁繩一本(証第一号)は、本件犯行の用に供したものであつて、且つ被告人以外の者に属しないから、同法第一九条第一項第二号、第二項によりこれを被告人から没収すべく、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項を適用してこれを全部被告人の負担とする。
よつて、主文の通り判決する。
(裁判官 組原政男 西村哲夫 武波保男)